花組芝居〜鏡花まつり〜「泉鏡花の日本橋」@シアタートラム

花組芝居による泉鏡花作品再演2本立て。同時期に2本を上演とは、無謀ともいえるし豪華ともいえるし。初演を観ていないしせっかくだから両方見なければ、と連日三茶通い。本当は原作を読んでから舞台を見たかったんだが、最近本を読む時間なんぞなく、更に劇団ホームページの稽古場日誌すら見る余裕もなく、仕方なく前情報はチラシのあらすじだけという状態での観劇。まあその方が、舞台に対しての新鮮味や感動がより大きくもある。
久々にシアタートラムに来たけど、やっぱりちょっと小さいね。ロビーなんか控え室って位の小ぢんまりサイズ。物販に劇団員の姿もあって驚いたけど、今回は2本立てだから出のない役者は多少手が空いてるらしい。本日の物販担当は大井氏と八代氏。大井氏の頭が豹変していて、最初誰だかわからんかった。小さいハコだけどしっかりした劇場。舞台のセットもよく出来ていること。ここでちょっと不思議。2作品同時上演ってことは、セットはこのままor変更?ってこれだけのセットを変更するのは大変だろうから、同じセットで違う演目を上演するんだろうな。こういうのも考えないといけないから、演出側はホント大変だろうな〜。でもそれをクリアに解決して、いいモンを造ってくれる演出家:加納幸和氏。毎度感心させられる。
「物の怪の出ない鏡花もの」というわけで、じっくりと人情物語が繰り広げられる。目玉である2人の芸者、加納氏のお孝と植本氏の清葉。オープニングからしていきなり2人が上下から登場するもんだからすっかり目を奪われ、どっちに集中しようか迷ってしまった。
原作を読んでいないので細かいところではわからない部分もあったけれど、全体的にはちゃんと内容が理解できた。そして花組見てていつも思うのが、演出が面白いのと役者の演技がいい事。セットを縦横無尽に練り歩くシーンから、目的地まで街中を歩いているんだなってのがちゃんと解る。葛木の回想をお孝に語るシーンでは、清葉は2階、葛木は1階とわざと離れた場所でその間にお孝を挟んでいる配置で、3人の関係が口で語るよりもハッキリと伝わる。そんなにも清葉(正確には姉か?)を慕っている葛木が、結局はお孝を受け入れて心底お孝を大切にするってのは、葛木の人情とかお孝の想いの強さとかによるものなのかな〜。
アワビだのサザエだのウジだのがいちいち巨大化して出てくるのを見て、なんでこう着ぐるみとかお面とか巨大化が好きなんだろうと思ってしまったが、ウジの着ぐるみなんざパッと見はなかなか可愛く、台詞上では非常にキモいシーンなのに(実際葛木はゲロリだ)そういう不快感を感じさせないって考えると、着ぐるみ着る意味もあるのかなと?
役者はホント皆さん芸達者で。結構驚いたのが秋葉氏。あのキャラクター上、いつもはユーモア溢れる(よーするに笑える)女形ってのが結構定着しているけれど、今回はフツーのジジイ。これがまたいーんだ!いつもは笑いを取って舞台を沸かせるのに目がいってしまって解りづらいのかもしれないが、こういう特に笑いもなく普通の人間を演じるとその「普通さ」加減がすごく良くて、気付かないかもしれないけれど実は力量を持った役者なんだなと。演じている役がちゃんと中身のあるひとりの人間として出来上がってるっていうのかな、上手く言えないけれど。女形の加納・植本両氏がいいのは勿論、葛木を演った各務氏も赤熊の水下氏も当然いい。ガチンコ勝負って感じの舞台やね。
物の怪が出てこないということで、鏡花先生の魅力のひとつである幻想的って感じはちょっとないけれども、その分人情味に関してはたっぷりと込められている。それにしても「婦系図」といい「日本橋」といい、悲劇悲劇悲しすぎるぅ〜って話ばかりだな、鏡花先生。けれども全体的にずどーんと重くならないのは、芸者たちを始めとする女性達の華やかな愛すべきキャラクターが物語りを彩ってるからじゃないかと思う。それぞれ違った個性があって、いやいやまったくホントにいいオンナ達だよ。
昨日初日を迎えたばかりで、まだまだこれから舞台が成熟していくんかな?そんな中にちょっとしたトラブル。前半で秋葉氏が袖に引っ込む際に、セットにぶつかってコケる。大丈夫かいなと思っていたら、今度は後半に客席から登場した各務氏が、舞台に上がる階段でこれまた思いっきりコケる。何気にアドリブ「痛いじゃないか!」とかますが、そんな余裕がある程には思えないほど、痛そうなコケ方。まだまだこの先何公演もあるのに、大丈夫だろうか?それにしても相変わらずちょっと不思議に思ってしまうのが、花組入座前には俳優座にいたという各務氏。いわゆるストレートプレイでなく、こういうちょっと特殊な芝居を選んだのは何故?まあ外部公演も多く、花組にいながらもストレートプレイも数多くこなしているから、花組に入れば外でも内でもいろいろな芝居が楽しめていいのかもしれない。見る側としても、あっちこっちでさまざまな演技を見れてお買い得だし。いやいや全くいい役者だよ。あれ?よくよく考えると花組役者連ってあんまり映像には出てない?舞台俳優が活躍している最近の流行の中では、ちょっと珍しいかな?